ハロウィーンを君と
リドルはイライラしていた。
先ほどまで花壇に無断で入り込む客人と揉めていたからだ。ハートの女王の法律以前にモラルが欠けている客が増えてきている。
いくら注意しても聞かずにやりたい放題、挙句には「寮長さんかわいいね、ツーショ撮ろう!」などとぬかしたから首をはねてやろうかと思った。
ケイトやデュース達に止められて、招かれざる客は追い出された訳だが、イライラは完全に収まったわけではなかった。
"リドルくん、もうすぐ着くよ"
ぽん、とスマホがメッセージが来たことを知らせる。その主は彼の愛しい彼女だった。画面を見ただけで頬が緩む。加えてイライラもだんだんと浄化される気がした。
全寮制のNRCにいるリドルにとってナマエと会える機会はホリデーの帰省時期か、こうした学園を開放したイベントごとくらいしかない。
"校門まで迎えに行くよ。くれぐれも知らない人に着いて行かないように"
"分かってるよ。リドルくんは心配し過ぎ。私は子供じゃないもん"
少し過保護すぎるかもしれないが、ふわふわしてる彼女は誰かに着いていきそうな危なっかしさがある。だから心配しても減ることはない。
返ってきたメッセージには怒り気味な顔文字が付いていて、ほっぺを膨らませているナマエの顔を想像した。
早く会いたい、とはやる思いを仕舞い込んで寮生達に午後の指示を出して植物園を後にした。
今日の休憩時間はNRCに遊びに来たナマエを盛大におもてなししなければ。
「ね、ね、お姉さん1人?なら俺らと一緒に回んない?NRCの映えスポットなら何でも知ってるよ」
「えっと、人を待ってるので。ごめんなさい」
「それ、ホント?誰も来てなくない?俺らとスタンプラリーしようよ」
リドルは目の前のその光景に収まっていたイライラがぶり返した。
むしろ先程よりも頭に血が登る。体温が上昇して、ドスドスと足音を鳴らしながらナマエと、…ナマエに話しかける輩に近づいた。
「ねえ、キミたち。誰の許可を得てナマエに話しかけているんだい?」
苛立っているから思ったより低い声が出た。彼らはリドルを見て数秒考えた後、ニコッと笑って自撮り棒を掲げた。
「えー、キミの友達?すっごいかわいいね!この出会いに感謝!4人で写真とろーよ!」
リドルとナマエの肩をだいて勝手に撮影を始めるからリドルの我慢はもう限界だった。肩に回された手を思いっきり叩いて振りほどいた。
マジカルペンを取り出そうとしたら、彼女がリドルの腕を掴んだ。
「リドルくんっ、落ち着いて」
「これが落ち着いてられるか!ボクの彼女に気安く触るなッ!」
ナマエの制止はさっそく意味をなしていない。いくらリドルが小柄と言えど男女の力の差は歴然だった。
それでもこの場をなんとかしなければならない。ナマエはありったけの力を振り絞ってリドルの腕を引っ張り、その場から移動させようとした。
「…リドル。少しは落ち着け」
「トレイくん!」
諦めてリドルが一般人に魔法を放つことに目を瞑ろうかとしたとき、落ち着いた声が後ろ聞こえた。
そこにはリドルと同じスケルトンの衣装を着たトレイがいて、リドルの肩に手を置いて制止させた。
*
あれから適当に空いている教室へ連れて行かれリドルが冷静になるまで2人で宥めた後、トレイは植物園へと戻っていった。
「すまない、ナマエにみっともない姿を見せてしまった…」
「ううん。リドルくんは困ってる私を助けてくれようとしたんだよね?すごい、嬉しかったよ。ありがとう」
そうして冷静さを取り戻して申し訳なさそうにしているリドルにフォローを入れる。
2人でいるときは温厚で優しく王子様みたいな彼があそこまで取り乱すのは初めて見た。最初は驚きはしたが、それも私を想っての行為だから嬉しくないはずがない。トレイくんに少しだけ話を聞いたら私に会う前から色々とあったらしい。
「久々に会えたのに、こんな始まりですまない。休憩時間はまだあるから一緒にスタンプラリーを回ろうか」
「うん!」
勢い良く返事をするとリドルが差し伸べた手を握る。するりと絡められる指にどきっとしてしまう。
ただ手を繋いだだけなのに、ホリデー以来画面越しでしか見れなかった彼が目の前にいて、触れられる距離にいるのがどうしようもなく嬉しかった。
「そういえば、ナマエはハロウィーンなのに仮装はしてこなかったんだね」
「荷物になっちゃうから、持ってきてないんだ。ごめんね。やっぱり何かしらしてきた方が良かったかな…」
仮装をしてこなかったことを少し後悔したナマエは俯く。表情は少しだけ曇ったものになった。
それを見たリドルは数秒考えた後、マジカルペンを取り出した。
「…さっきのお詫びにボクからこれをプレゼントしよう。きっとナマエにぴったりの衣装になる」
キラキラと彼女の体が光に包まれると一瞬で着ていた服が変わった。
水色のワンピースに白いエプロン、髪には黒いリボンの付いたカチューシャが乗っている。実践魔法が得意なリドルらしく、服装は細かい所までしっかりと作り上げられていた。
「かわいい…!リドルくん、ありがとう!」
「うん、やっぱりナマエにはこの衣装が似合うと思っていたんだ」
繋いでいない方の手で髪をひと束掬うとそこにキスを落とした。その行為に顔に一気に熱が集まる。
「…そんな顔されたらキス、したくなるだろう?」
繋いだ手がぐいっと引っ張られてリドルとの距離が近くなる。おでこがこつんと触れ合い、もうすぐキスできるところまで来てしまう。
「り、リドルくんっ。誰か来ちゃうかも…!」
「みんなハロウィーンで浮かれている。それに久々にテレビ電話じゃなく、キミに触れられるんだ。少しだけいいかい?」
ナマエが返事をする前に唇は重なった。
ちゅっと、最初は触れるだけのキスからどんどん甘く深いキスに変わる。舌を絡め合い唾液の混ざり合う音が教室に響いた。
体が熱くなって本能的に互いを求め合う寸前で唇が離れると、つうっと唾液の糸が引いて切れた。
「リドルくんっ…」
「どうしたんだい?顔が薔薇みたいに赤いね。」
焦らすように耳元で囁くとびくんっと彼女の肩が揺れた。頬をするっと撫でて、唇へ指を滑らせる。
ふにふにと親指で唇を触ったリドルの目は夜のベッドの時のギラつきを感じた。
軽く触れ合うだけのキスをした後、リドルはナマエにこう囁いた。
「そうだ。スタンプラリーが終わったら続きをしようか。ね、ボクのかわいいアリス?」